ペーテル・パウル・リュベンス《縛られたプロメテウス》
ギリシア神話によれば、ティタン神族のプロメテウスは、神々から火を盗んで人間に与えたという。
神々の父ユピテルがこの反逆行為にたいして下した罰は、きわめて過酷であった。プロメテウスはカウカソス山中の岩山に鎖でつながれ、毎日やって来る鷲に生き肝を食いちぎられるという責め苦を課されたのである。肝臓はたちまち再生したため、プロメテウスは来る日も来る日も壮絶な苦しみを耐え忍ばなければならなかった。
この神話は、永遠に巨石を丘の上に押し上げる罰を下されたシシュフォスの神話と同様に、われわれ人間がこの世でさまざまな苦しみを耐え続けなければならないことの寓意である。つまり、永遠の責め苦を課せられたプロメテウスは、病気、老い、諍い、憎しみ、執着、嫉妬、愛する者との別れといった生き地獄を日々耐えるよう宿命づけられた、われわれ人間の姿にほかならないのである。
[出典:吉田八岑/田中雅志『宗教地獄絵残虐地獄絵』大和書房 2006/07]