カラッチ、アゴスティーノ Carracci, Agostino 1557~1602

 16世紀イタリアでは、マルカントニオ・ライモンディが版刻した「イ・モーディ」以来、エロティック版画が次々と現れた。好色版画の興隆期である16世紀にあって、ライモンディ以来の最大のエロティック版画家といえば、ためらいなくアゴスティーノ・カラッチの名を挙げることができる。

 イタリアの画家、版画家アゴスティーノは、従兄弟のルドヴィコと弟のアンニーバレとともにカラッチ一族としてその名声を美術史にとどめている。彼らは故郷のボローニャで画塾を開き、古代美術とルネサンス美術の理想をモデルの写生素描という現実観察の手段と結びつけ、新しい時代の芸術を目指した。その過程で、とりわけアゴスティーノは異教世界に材とをとったエロティックな情景を熱心に描いている。おもにティントレットら巨匠の有名絵画の版刻に取り組んだが、自分自身が描いた絵画の版刻にもいそしんだ。

 アゴスティーノは「黄金時代の愛」の主題に基づき4点のエロティック絵画を残している(図2-22)。それらは牧歌的な田園風景のなか、いまだ罪を知らない男女たちの愛の交歓をしたためたものだ。

 だがアゴスティーノのエロティック・アートの代表作となると、「ラシーヴィエ」(1584-87)として知られる銅版画の連作を挙げねばなるまい。なお「ラシーヴィエ」とは、イタリア語で「好色」とか「淫蕩」を意味する言葉である。

 この好色版画の連作は、サテュロスとニンフ、古代の神々や英雄たちが繰り広げる愛の交わりが赤裸々に描かれている。印象的なのは、さまざまなセックス体位、とりわけ挿入のさまが強調されていることだ。これは明らかにジュリオ&ライモンディの「イ・モーディ」の影響が見てとれる。

 

 

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