レオナルド、ミケランジェロ、ラファエロの盛期ルネサンス御三家のうち、ただ一人明らかに異性愛者であったのがラファエロである。
画家で伝記作者のヴァザーリによれば、ラファエロはたいへん女好きで、惚れやすい人であったという。親友アゴスティーノ・キージから邸宅の装飾を頼まれたときのこと、ラファエロはある女性に熱をあげるあまり仕事に手がつかなくなっていた。仕事はどうにか完成したが、それはラファエロがその女性と仕事場でいっしょに住めるよう便宜を図ってもらったおかげであった。そんなプレイボーイの彼が37歳の若さで夭折したのは、女性との「際限を知らない快楽」のためであったという。
ラファエロは自分の恋人をしばしばモデルに使っている。なかでも、彼が死の直前まで隠し持っていたという《ラ・フォルナリーナ》は、最愛の恋人の一人を描いたとされる。しかし、この絵に描かれた半裸の女性もまた、彼の聖母子像の慈愛に満ちた聖母たちと同じく、現実のモデルをもとにラファエロの心の目によって再構成された理想の女性の姿であるにちがいない。