オランダのポルノ版画 Pornographic engravings originated in the Netherlands

 好色な風俗画の描き手は、なにもレンブラントやステーンといった名のある画家ばかりでない。今日伝わる17世紀オランダ版画のなかには、無名の絵師たちがしたためたポルノグラフィックなイメージが散見される。レンブラントのような有名画家の影には、名もない風俗画家たちがごまんといたのである。

 ポルノ版画の流行は、宗教的にも政治的にも寛容であったお国柄を反映するものだ。オランダは続く18世紀にわたり、好色本や自由思想書の地下出版のメッカであった。

 そうしたエロス先進国のポルノ版画では、好色な聖職者というテーマがもっとも好んで取りあげられた。カトリックの僧侶、修道士、修道女の悪徳やスキャンダルは格好のネタであった。

 カトリック聖職者にたいする好色諷刺画の流行は、じつは道徳的な理由というより、それ以外の理由も持っていた。反僧侶の好色画が盛んに作られた背景には、新教国オランダがその当時カトリックと、それもとりわけイエズス会と、宗教的ばかりか政治的にも経済的にも激しく争っていたという事情があった。つまり、カトリック僧の淫蕩図は宿敵を非難する格好の手段だったというわけである。

 敵の下半身を暴露してやり玉に挙げるというこの手法は、そののち革命前夜のフランスで、マリー・アントワネットやルイ15世をはじめとする旧体制の大立て者の面々を好色パンフレットでこき下ろす際にも踏襲された。

 こうしたパンフレットは、庶民レベルでフランス王権を失墜させるのに思いのほか大きな威力を発揮した。そう考えると、オランダのポルノ版画は、のちのフランス革命を準備した陰の立て役者の一人でもあったと言えるかもしれない。


 

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