18世紀フランスのロココ美術を代表する画家の一人。
ヴァトーとともに芽生え、ブーシェによって華々しく開花したロココのエロティック・アートは、フラゴナールのもとで爛熟期を迎える。フラゴナールは金持ち階級の遊惰な生活に親しく交わりつつ、黄昏ゆくロココの熟れた果実をあまたに実らせた。
フラゴナールは粋な遊び人であり、金持ち遊民との交際を楽しみ、あまたの女性と浮き名を流した。《ブランコ》をはじめとする彼のエロティック画は、つまりは「遊び」であった。ロココは「遊び」が芸術となりうる幸福で希有な時代であったのだ。
フラゴナールのエロティック画は、すべて女性美の礼賛に捧げられている。彼が描きだす艶景には、無防備な女性のあられもない姿をこっそりと覗き見る「鍵穴エロティシズム」が濃厚に漂う。 また、フラゴナールのエロティシズムは、ヴァトーのようにしっとりと愁いを含んだものでなく、ブーシェのように気取ってもおらず、軽快であけっぴろげであっけらかんとしているのが特色である。
大革命を機に、フラゴナールは凋落の一途を辿った。新たな時代が幕を開け、社会が禁欲的な空気に包まれるにおよび、彼はいまは亡き師ブーシェとともに、堕落しきった特権階級の快楽に奉仕した頽廃画家との烙印を押されたのである。かつての売れっ子画家はすっかり世間から忘れ去られ、ナポレオン・ボナパルトが皇帝に即位した二年後の1806年、困窮のうちに世を去った。