大革命前後の激動の時代に生きたフランスの建築家。その経歴や生涯の多くは謎に包まれている。建築家というより、夢想家といったほうがふさわしい。ルクーは建築図面をたくさん残しながら、実際に建てられたのは二つしかなかった。建築不可能な図面も多々ある。フリーメーソンと関係があったのは確かで、建築図の随所にヘルメス主義的神秘思想をちりばめている。貧困と世間の無関心のなか世を去る半年前、その特異な作品をフランス国立図書館に寄贈した。
「幻視の建築家」としてのルクーも興味深いが、ここで紹介したいのはエロティック画家としてのルクーである。女装し付け胸をした自画像。頬にはチークを入れ、倒錯的というか、なんとも脳裏にこびりつく笑みをたたえている。または、両股開きの女体図。女陰と陰毛がリアルに描かれ、随所に書き込みが記されている。男女の性器をクローズアップで克明に描いた一連の素描もある。ここには特異な性癖やオブセッションとともに、解剖図的な冷めたまなざしも感じられよう。
ルクーのエロティック画は、サドの文学や、大革命期に流布した無名画家の好色画と同じく、激動の時代を根底から突き動かしていた莫大なエネルギー、過剰なリビドーの現われであったように思えてならない。