オーストリアの画家、素描画家。
20世紀の初め頃、好色出版物のメッカであったウィーンに、『ムスケーテ』という週刊誌があった。この風俗雑誌はたくさんの美人画を掲載したが、同誌で筆頭画家として活躍したのがハインリヒ・クレーネスであった。
クレーネスはいまではまったく顧みられなくなったウィーンの画家である。長い間パリに滞在していたというが、そのほかの詳しい生涯については、いまとなってはほとんど伝わっていない。
クレーネスが束の間のメディアである週刊誌に残した美人画もその多くが時の流れとともに散逸し、あるいは印刷紙の黄ばみとともに風化しつつある。しかし、クレーネスの美人画は、過ぎし日々ウィーンの熟れた頽廃とパリの洗練された官能とを、いまだにしっかと伝えていよう。